Career Break Journal

兵庫県新温泉町が「無職酒場」を開き、地域おこし協力隊インターンの入口に

兵庫県新温泉町が「無職酒場」を開き、地域おこし協力隊インターンの入口に

2025年10月28日、大阪・堂島のWowUs(ワオアス)で「キャリアブレイク座談会&無職酒場@大阪 Presented by 新温泉町」が開催された。


無職酒場とは、キャリアブレイク研究所が運営するイベントだ。キャリアブレイク中、いわゆる無職の人たちが集まって、お酒を飲んだり、食事をしたりする交流イベントとして、不定期開催している。店主が手を上げれば開けることもあって、北は札幌、南は福岡まで、いろんな人が開催してくれており、開催はまもなく50回を超える。

第1回、新温泉町とのコラボイベントの様子(2025年1月大阪開催)


今年9月6日(日)東京でも開催予定の兵庫県新温泉町とキャリアブレイク研究所のコラボは、2025年1月、10月と通算で2回実施。コラボ企画は、新温泉町が実施する2週間滞在プログラム「ローカルクエスト」をキャリアブレイク中の人たちに知ってもらうためのPRイベントとして開かれたものだった。


そして実際に、このイベントをきっかけにローカルクエストへ参加した人もいる。役場の担当者、地域で活動する人たちは、その理由をどう見ているのか。前回実施のイベントの様子も含めて紹介する。

新温泉町という町、そして「ローカルクエスト」

新温泉町は、兵庫県の日本海側、鳥取県境に位置する町だ。カニやホタルイカなどの日本海の幸、世界農業遺産に認定される但馬牛の生産システム、湯村温泉をはじめとする3つの温泉——資源には恵まれている一方で、過疎化が進み、その資源を活かす担い手が不足しているという課題を抱えている。

新温泉町(湯村温泉)


「ローカルクエスト」は、そんな新温泉町が実施する2週間滞在プログラムで、総務省の「地域おこし協力隊インターン」の仕組みを活用している。「ローカルクエスト」の企画運営を担うのは株式会社ホーン。無職酒場は、このプログラムの存在をキャリアブレイク中の人たちに届けるための入口として位置づけられている。見返りを求めず、勧誘もせず、好きなときに来て好きなときに帰れる——そういう場だからこそ、まずは軽く関わってもらう、という設計だ。

座談会に立ったのは、実際にローカルクエストから二拠点居住へ進んだ人だった

第1部の「キャリアブレイク座談会〜新温泉町編〜」に登壇したのは、竹辺さんと、新温泉町商工観光課長兼おんせん天国室長の谷口さん。聞き手はキャリアブレイク研究所理事でむしょく大学運営事務局・無職酒場オーナーのまっくすが務めた。

第2回、新温泉町とのコラボイベントの様子(2025年10月大阪開催)

竹辺さんは、サービス業・事務職を経て20代半ばでフィリピンへ語学留学、オーストラリアなど3か国でワーキングホリデーを経験し帰国。派遣社員として勤務したのち、キャリアブレイクの期間中にローカルクエストに参加し、2025年3月に初めて新温泉町を訪れた。以来、その自然や人の魅力に惹かれ、大阪と新温泉町の二拠点居住から約半年の移住へとライフスタイルを変化させた。現在は大阪在住ながら、新温泉町内企業との業務契約を行うなど関係は続いている。

キャリアブレイクという「立ち止まる時間」が、無職酒場というPRイベントをきっかけにローカルクエストという現地プログラムへとつながり、最終的に暮らし方の選択肢が拡がった。

キャリアブレイク研究所と共同で座談会を企画する意義について、関係者に話を聞いた。

「肩書きを外して話す」ことの意味 ── 谷口さんが語る座談会の価値

谷口さんが座談会の場で大切にしているのは、役職や肩書きを外して話すことだという。

「『今ちょっと休憩してるんです』と言われると、『何があったの?』って聞きたくなってしまうところがあって」と谷口さんは話す。仕事を辞める、次に移ろうと思う——そうした出来事は、自分の友人や家族の人生にも起こりうるものだ。だからこそ「どんな人とでも話をしてみたい」という好奇心が、座談会の起点にあるという。

その先にあるのは、話す相手自身が主人公になれる場をつくることだ。「役場からの業務でなくても、民間の中であなたの力を必要としている業界がこの町にあるかもしれない。都会で培ってきたノウハウも、田舎で培ってきたノウハウも関係なく、あなたの経験が役に立つ場がうちの町にあるかもしれない」。谷口さんはそれを「小指と小指が触れ合うくらいの、ちょっとしたつながり」と表現する。そうした関係性が生まれれば会話は面白くなるし、相手が「この町、なんかありそう!」と思ってくれたら、それでいいのだという。

新温泉町の暮らしについて、谷口さんはこうも語った。「うちの町は、今このバスに乗らなかったら一時間後までバスがない。今このコンビニで買い物しなければ、この先5キロはコンビニがない。目の前にあるチャンスを掴むかどうかを、自分で決めなければいけない街なんです」。優しく受け入れてくれる場所というより、むしろ過酷かもしれない——そう前置きしたうえで、価値観を一度揺さぶってみたいときに来るには、いい場所かもしれない、と谷口さんは話す。

「自分を受け入れてくれる居場所」を見つけた人たち ── 古矢さんが見るローカルクエストでの変化

大手企業で広報の仕事を担当していた古矢さんは、新温泉町出身のママ友との縁をきっかけに新温泉町とつながり、上山高原の再生活動に取り組むNPO法人「上山高原エコミュージアム」の認知拡大にボランティアとして関わってきた。高齢化・過疎化が進む新温泉町の活性化に役立ちたいと、2024年に町内に居を構え、2025年にキャリアブレイクを経て、現在は新温泉町役場で自身の経験を踏まえ、移住・定住促進業務に就いている。

古矢さんは、ローカルクエストに参加する人たちの変化についてこう語る。「皆さん、それぞれキャリアを積んできて、一旦立ち止まったときに、自分が持ってきた経験やスキルを見直す時間がキャリアブレイク中なのかなと思っています」。ローカルクエストでは、参加者をかまいすぎず、あえてほったらかしにする時間をつくっている。最初は不安に思って参加する人もいるというが、実際に動いていく中で「自分の新たな一面」「こんなにできるんだ」という自信や再発見を感じて帰っていく人が多いという。

第2回新温泉町とのコラボイベントで用意された地酒

その方たちが町に愛着を持って、もしくは自分の居場所や、また会いたい人を見つけて、今度は自分のお金と時間を使ってまた来てくださる。そんな連鎖が生まれるのがいいなと思っています。

その自信のきっかけが何なのかを問われると、古矢さんはこう答えている。

皆さん、自分を受け入れてくれる居場所を探していらっしゃっているように感じます。何かあったときに知らない人でも声をかけてくれる、そういう土壌がこの町にはある。都会で感じていた寂しさや、受け入れられないような不安に対して、ホッとする場になっているんじゃないかと思います。

「余白」というキーワード ── ホーン・松本さんが見るキャリアブレイクと地方の相性

一人旅メディア「ソロトリ」を運営する株式会社ホーンの松本さんは、「ローカルクエスト」の企画運営を引き受けている。そんな松本さんは、キャリアブレイクと地方の相性を「余白」という言葉で説明する。

キャリアブレイクをされる方々のきっかけって、まず今の社会的な役割を一回脱ぎましょう、というところにあると思っていて。僕らもソロトリで『一人の時間は社会的役割を脱ぐ時間だ』とよく言っているので、個人的にキャリアブレイクという考え方がすごくいいなと思っていました。

余白を持ちたいという欲求を持ったとき、まず自分と向き合う時間を取ることが大事になる。「今の日常からあえて離れて、地方で自分を見つめ直してみるのは、大事なアプローチなんじゃないかと思っています。仕事から離れるのも変化ですが、思い切って環境ごと変えてみるきっかけとして、地方はいいんじゃないかと思っていて」

松本さんは、キャリアブレイクをした人がすぐにどこかへ行動を起こすわけではない、という感覚も語っている。

役割を捨てて自分が見えてきて、空っぽな余白が見えてくると、そこを新しい刺激で埋めたくなる欲求があるんじゃないか。そのときに、また日常に戻るんじゃなくて、新しい刺激を地方で受けるという選択肢があっていいんじゃないかと思っています。

参加者の変化については、谷口さんの見方と重なる部分があるという。

地方に来たからといって、2週間の前後ですぐ何かが変わるわけではなくて、その中で自分で何かを見つけられる人も、見つけられない人もいる。それでも、自分の中にある種を何かしら形にして育て上げられた人は、またこの地方で何かやりたいと思ってくれるかもしれない。そうでなければ違う道に行くかもしれないけれど、きっかけを提供できた町、という印象は残っていく。そういう輪が広がっていくんじゃないかと思っています。

おわりに

無職酒場という「肩書きを外して話せる場」が、ローカルクエストという現地プログラムへの入口になり、実際に竹辺さんの二拠点居住という行動につながった。今回話を聞いた谷口さん、古矢さん、松本さんの言葉に共通していたのは、キャリアブレイクという「立ち止まる時間」と、新温泉町という土地の持つ「余白」や「不便さゆえの選択の自由」が、構造的に相性がいいという実感だった。

2026年09月03日

PARTNER

兵庫県新温泉町

兵庫県新温泉町

谷口薫さん

兵庫県新温泉町商工観光課長兼おんせん天国室長。各家庭へ温泉が配湯される新温泉町の湯村温泉で生まれ育ちました。温泉が身近なくらしの魅力を伝えるために、「シン・温泉検定」の講師も担当しています。プライベートでは手話サークルの代表として町内の小中学校へ出向き手話の講師を務めるほか、過去には湯村発祥の「全日本かくれんぼ大会」を「全日本かくれんぼ協会」の副会長として推進するなど、役場職員の枠を超えて町の知名度向上に努めています。

WRITER

北野 貴大

北野 貴大

代表理事 / 一般社団法人キャリアブレイク研究所

2014年にJR西日本グループに新卒で入社し、都市開発に従事。妻のキャリアブレイクをきっかけに、キャリアブレイク中の人のための宿「OKAYU HOTEL」を2021年にスタート(現在は奈良で運営中)。退職後、一般社団法人キャリアブレイク研究所を理事2人と共に2022年に設立。2023年より、大阪公立大学大学院経営学研究科付属イノベーティブシティ大阪ラボ特別研究員。

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