
読みもの
2026.09.16私の「むだチャレ」
#2漆喰の世界へ足を踏み入れる
(全8回)
執筆:あやこ

読みもの
#2漆喰の世界へ足を踏み入れる
(全8回)
執筆:あやこ
プロローグ
もしかしたら、人からは「無駄」と言われるかもしれないこと。
でも自分の心が、どうしても見過ごせないこと。
見過ごせないから、「やっちゃった」こと。それが、私の「むだチャレ」。
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ペースト状のものを塗り広げ、乾かすという素朴な工程。
またコテ跡も「味」となり、あわよくば「オシャレ」になるらしい。
漆喰には、私の求める度量の広さがありそうだった。
かつて通っていた、美容室を思い出す。個人経営で、とても雰囲気のよい空間だった。
私は鏡よりも背後の壁の不思議な表情、えも言われぬ凹凸に目がいって、素敵な壁ですね、と話してみた。
するとその壁は何と、美容師さんがひとりで塗ったものだった。
壁だけではない。その美容室は、内装の大部分が彼女の手によるものだった。
簡単ですよ、塗り壁。ただ腕を大きく動かせばいいんですから。
と、彼女は笑っていた。
簡単ですよ、と既にできる人は言ってくれるが、私はYouTubeで調べた知識からいきなり実践に跳んで、とん挫ししている。しかも今回は漆喰という、全くさわったことのない素材。
これは、「学ぶ」ステップが必要なのではないか。
誰か、オラに力を分けてくれ!
私は『漆喰 体験』で検索を繰り返し、「漆喰うま~くヌレール®」というメーカー主催のワークショップにたどり着いたのだった。
東京or京都※のラボでの「漆喰DIY教室」か(※今は大阪に変わっています)、
もしくは彼らが全国のホームセンター店頭で実演し、希望者には試し塗りをさせてくれる場か。
教室は、指定の場所まで赴かないといけないが、少人数制で、漆喰とは何ぞやという基礎知識から、コテの持ち方、漆喰をどう扱って塗るのか、模様のつけ方まで教えてもらえる。
実演会は、近所のホームセンターにやって来るのを待てばいいが、果たしてこの試し塗りが、どれほどやらせてもらえるものなのか。
これは、教室、だな!
私は意気揚々と、予約申込をクリックした。
京都のラボは、二条城のすぐ近くにあった。
(ワークショップが終わったら、お城も観ていこうかな。久しぶりの京都だし)
なんて、観光も目論んでウキウキ、その日を待っていたが、当日はなんと警報級の大雨。
あまりの激しさに、二条城はただ、白くけぶって見えるだけだった。
しかしこの雨が唯一、幸いしたことがある。
他の参加予定者がこぞってキャンセルしたため、教室は私の貸切状態に。
私は当初の想定よりもみっちりと、漆喰について教われることになったのだった。
まずは、座学から。
漆喰とは、建築における『壁材』のひとつ。
石膏ボードに壁紙を貼って壁を作る方法があるように、漆喰を塗って仕上げる方法もあるのだ。
たとえば姫路城。かの城が「白鷺城」と呼ばれる所以のなまこ壁、あれが漆喰壁だ。
もしくはギリシャ・サントリーニ島。地中海の群青に映える、白壁の家々。あれが漆喰壁だ。
漆喰の主原料は「消石灰(水酸化カルシウム)」。ルーツはなんと、サンゴ礁だ。
これが自分には面白かったので、ここにも書き残しておく。
海に潜って採るのではない。長い年月をかけて隆起し、陸地になったサンゴ礁の鉱脈から採掘するのだ。
広大な太平洋の海底で育まれたサンゴ礁が、地殻変動によって海から山へ。何とも太古のロマンを感じる話だ。
これを焼いて成分を分解させ、二酸化炭素を除いたものが消石灰(水酸化カルシウム)である。
消石灰に「つなぎ」としての糊(粘性)やスサ(繊維)を加えて、水で練ったものが漆喰なのだ。
要は、レバーペーストみたいな建築材料がある、ということだ。
この消石灰、凝固剤としてはたらく。
空気中の二酸化炭素に反応して元の性質へと戻っていき、固まる。この性質が時間の経過とともに、漆喰を塗った壁や天井を硬く、強くさせるのだ。
へぇーっ、と思ったのが、消石灰はこんにゃくを固めるのにも、肉を結着させてハムやソーセージを作るのにも使われていること。剛にも柔にも幅広い、器用なヤツ。
食品加工にも使われるとはいえ、強アルカリ性なので取扱には充分注意しなければならない。手袋必須で、素手でさわると、簡単にかぶれるほどだ。かつて運動場の白線引きに使われたのが、今は禁止されているのも、その理由による(今の白線は安全な炭酸カルシウムが主流)。
次に、実技。
左官職人は、漆喰を『練る』ところから始めるだろう。
しかしメーカーは、既に練られた状態で商品化してくれるのだからありがたい。
ということで、手にしゃもじを持ち、コテ板に練り漆喰を取ることから、始めよう…!
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- 漆喰をコテ板に取る
- 漆喰をコテでほぐす(柔らかく、扱いやすくなる)
- 手首の返しを使って、漆喰をコテに乗せる
- 壁になすりつける
- ならす
(以下、①~⑤の繰り返し)
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実際に漆喰をさわり、壁に塗ってみて。
この感じ、懐かしいと思った。そして、この一連の動作が“すんなりと自分にインストールされた”ように感じた。
ひとりだったから、私はたくさん、塗らせてもらえた。
左上の角から始めて、横→、下↓、へとコテを滑らせていく。
最初になすりつけるときはグッと押しつけ、次にならすときはスウッと撫でるように。
スウ、の後は変にいじくらない。つい後から、やっぱり…と戻って撫でたくなるが、かえって変になる。その都度、やらなきゃよかった、やはりスウ、の後はそのままにしておくのが原則だった、と悟っていく。
グッと、スウッと、グッと、スウッと。
肩から大きく腕を回す動作と、単調なリズムの繰り返しで、いつしか私はフロー状態に入っていた。
「はい!終わりまで、とっても上手に塗れましたね!」
講師の声で我に返った。私の目の前には、かつて美容室で見たような、あの表情の壁があった。
(できちゃった)
次号に続く。
●むだチャレとは??
周りに話したら「それやる意味あるの?」と言われたり、自分的にもやっても無駄かもと思うことってありますよね?
「無駄」や「無意味」と考えてしまうのは、損得や効率といった ”思考モード”が発動してるから。
けど、「なぜか気になってしまう 」「無性に惹かれる 」「どうしてもやってみたい」
コスパやタイパのことは考えずに、”直感”や”感性”に突き動かされた体験を綴ります。



